先週出た論文で、イベルメクチン(ストロメクトール)が細胞実験レベルでSARS-CoV-2の増殖を1/1000に抑えたという話がありました。
ストロメクトールは2015年にノーベル生理学・医学賞を受賞した北里大学の大村智特別栄誉教授が発見した新種の菌から開発された抗寄生虫薬で、実臨床でも老人病院で疥癬の治療としてよく使われているものです。疥癬とはダニが皮膚の中に卵を産み付けてはい回る病気で強いかゆみを誘発します。
投薬方法は、一回だけの内服でほぼ死滅させ、2週間後に再内服して卵から孵化したダニを全滅させます。つまり、基本的な治療は2回の内服だけです。
基礎疾患を複数持つ老人にも割と気軽に出せる薬なので、この内服で効くなら年内に新型コロナウイルスは抑えられると昨日はほっとしていたのですが、どうもそう簡単にはいかないようです。
まずはメカニズムです。
論文の中ではウイルスの蛋白質が核内輸送されるときに閣内輸送蛋白質のインポーティンアルファとベータと結合して、核内で抗ウイルス反応を抑制し、ウイルス感染を促進するのかもしれないとあり、ストロメクトールがそれを防ぐ仮説が挙げられています。
このインポーティンとウイルス蛋白質が結合して病気を悪化させるという説はほかのウイルスでも何度か取り上げられているメカニズムです。中でも論文ではデング熱とエイズのウイルスが取り上げられています。
問題というわけでもないのですが、このデング熱とエイズの話、さらにストロメクトールがインポーティンと結合するという論文は実は同じグループから一つを除いて同じ雑誌に投稿されているんですよね。
つまり、ほかの研究者から検証がなされていないわけです。
逆に言うと、今回のメカニズムの仮説も実は外れていてほかにある可能性もあります。
その一つがここで紹介されています。
話の背景を絵で見た方がわかりやすいので、絵が載っている論文がこれです。
STAT1という転写因子が細胞内に移行するときに乗るインポーティンKPNAにSARSのORF6 (6番目のOpen reading frame)が結合してそれを阻害することにより、STAT1に誘導される抗ウイルス活性を持つインターフェロンの産生を阻害することで、サイトカインのバランスが崩れて、サイトカインストームになることもあるという仮説です。
ストロメクトールはこのORF6に結合してSTAT1の核内移行を再活性化しているのではないかという仮説です。
エボラ出血熱ウイルスがいかにKPNAと結合するかの話はこちらです。
しかし、実は上記の仮説では、SARS-CoV-2とSARSのORF6は同じような役割を担っているならと仮定しているのですが、どうもその二つのホモロジーは69%で、さらに同じ細胞実験系で抗ウイルス活性のあるインターフェロンアルファの投与でSARS-CoV-2だけが増殖を抑制されたという論文があります。
論文の主張ではSARS-CoV-2のORF6のインポーティン抑制効果はSARSほどではないため、インターフェロンがそこそこ誘導されていて、さらに追い打ち効果を受けやすいとも取れます。これ、データを別の読み方をすると、SARS-CoV-2のORF6の方がインターフェロンアルファを選択的に抑制するのに対して、SARSは複数のインターフェロンを抑制しているので、インターフェロンアルファだけでは抑制効果がないともとれます。
いずれにしても、すでにほかのウイルスで試されているインターフェロン療法はSARS-CoV-2でより効きやすい可能性があり、そこは朗報です。
さて、話戻って、ストロメクトールです。
韓国の当局はこの薬に否定的な意見を述べています。
「患者や人に投与して効果を検証したのではなく、臨床適用には非常に無理があり、限界がある」と明らかにした。
また「人に投薬可能な正確な用量や副作用に対する安全性、有効性などが十分に検証されていないため、薬剤研究段階での一つの提言としてのみ見ている」
これは何を言っているのかなと思ったら、どうも論文の中での濃度が生体内よりも相当高いらしいのです。実際、論文中でも、タイでデング熱に対して第III相の治験が行われており、安全性は問題がないが、効果があまりないとなっています。
もうちょっと正確に計算してみましょう。
ストロメクトールの分子量は875.1ですから、疥癬で使われる量は200ug/kgで、体内に均一に拡散すると、だいたい0.44uMです。デング熱の治験は倍量もあるみたいですが、それでも、0.88uMです。
ところが、論文でのIC50(効果がある50%の濃度)が2.2-2.8uMです。半分効くのに2.2uMですから、ざっと5倍量であり、0.88uMでも全く効果がありません。
劇的な効果を出すには5uM、少なくとも、3uMくらいの濃度は必要です。
つまり、ざっといって、今使われている8-10倍量の薬を飲む必要があるわけです。しかも、内服だと吸収率の問題があるのでもっと大量に飲まないといけないわけですが、この薬は肝臓で代謝されるため肝臓の負担が大きすぎて肝炎や肝不全になるリスクがあるわけです。
しかも、試薬の詳細を調べると、高濃度では毒性があると書いてあります。
先ほどのサイトの追記で、ネブライザーで直接、肺や咽頭に投与すれば効くかもしれないと書いています。実際、先日のNature論文で他人に感染させるものは咽頭でも増殖していることが指摘されています。
それでも、一過性に10倍量の濃度の薬に暴露されるわけなので確かに何が起こるかわかりませんね。一応、いきなり、細胞が死ぬといったことはなかったようなので、リスク患者に試しでやるのもなくはないかもです。
というか、20年以上喫煙していてお金がある人は今からネブライザーとストロメクトールを最後の手段として手に入れていてもいいかもくらいです。
以上のように低濃度なら副作用もあまりありませんが、高濃度だとどうなるかわからないからということで韓国はすぐには乗り気じゃなかったんですね。
おそらく、日本国内でもすでに内服している患者がいると思いますが、通常容量だと、自然軽快と区別がつかない状態でしょう。
さて、先日、紹介したNature論文のように抗体ができるかどうかが山であり、実際、抗体を含む他の人の血漿で重症患者が治ったりしています。
インターフェロンは自然免疫を誘導する作用があるわけですが、それがより強力に促進されることで軽症化が期待できます。
問題は費用ですね。1週間毎日注射したとして、保険なしで一人10万円程度です。
自然免疫は初期反応ですから、早期検査をして、リスク患者にだけ投与するならありかもしれません。
さて、結論ですが、ストロメクトールを使う場合、ネブライザーで吸入以外の選択肢はなさそうです。その場合、初期ほど効果があるのですが、その後、体にどの程度浸透するのかというところでしょうね。あと論文の薬の効き方から考えて、直接的な効果というより、副作用としてまわりまわった影響の可能性もあります。
おまけ
先日提案したのに似たアプリはすでにイスラエルで実装されていました。
さらにスマホのアプリで、感染確定したらボタンを押せば、ここ1週間で近接した人(1時間以上近くにいた人)に知らせるものを実装させるのもありでしょう。そうすると、個人情報がばれる、例えば、浮気相手とかの情報がアプリ会社にばれるといったことを心配する人がいるでしょうから、そのスマホ端末内だけにそういう対象の人の番号を所得し、勝手にアプリが知らせて、しかも、その相手が誰なのかはわからないといった仕様にすれば、比較的個人情報は守れるはずです。
患者が近くにいたことを知らせるアプリで、検査で陽性だった人が2m以内に10分以上いたかどうか知らせるみたいです。
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